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京都地方裁判所 昭和41年(ワ)985号 判決

原告

金村幹男

代理人

鶴丸富男

被告

近藤秀麿

代理人

藤田玖平

主文

本件手形判決(当裁判所昭和四一年(手ワ)第二七三号約束手形金請求事件、昭和四一年九月三〇日言渡判決)を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

一原告主張の下記(一)、(二)の事実は、被告の認めるところである。

(一)、原告は、被告が振出した左記約束手形六通(本件手形)の所持人である。

(1)、金額 二〇〇万円

支払期日 昭和四一年五月一七日

支払地 京都市

支払場所 株式会社三和銀行京都駅前支店

振出地 東京都目黒区

振出日 昭和四一年三月八日

振出人 近蔵秀麿(被告)

受取人 吉田産業株式会社代表取締役田中賢治

第一裏書(白地式)裏書人 吉田産業株式会社代表取締役田中賢治

(2)、支払期日 昭和四一年五月一七日

その他 (1)と同じ

(3)、金額 一〇〇万円

その他 (2)と同じ

(4)、ないし(6) (3)と同じ

(二)、原告は、本件手形を各支払期日に支払場所に呈示して、支払を求めたが、支払を拒絶された。

二上記(一)の事実によれば、原告は、手形法第一六条により、本件手形の適法の所持人と推定される。

三よつて、被告主張の抗弁について判断する。

被告主張の抗弁事実のうち、原告が吉田峯之助から本件手形を取得した事実は、原告の認めるところである。

四上記争ない事実、〈証拠〉によれば、被告近衛秀麿は、昭和四一年二月二一日、吉田産業株式会社に対し、本件手形の割引を依頼し、本件手形を振出したこと、吉田産業株式会社は、吉田峯之助(当時同人と田中賢二の両名が吉田産業株式会社の代表取締役であつた。)に対し、本件手形を裏書(代表取締役田中賢二の白地式裏書)譲渡したこと、吉田産業株式会社代表取締役吉田峯之助が吉田産業株式会社から本件手形の裏書譲渡を受けるについて、吉田産業株式会社の取締役会の承認を受けていないことを認めうる。

五株式会社がその取締役に対し約束手形を譲渡する行為は、商法第二六五条にいう取引に該当する、と解するのが相当である(最高裁判所昭和三八年三月一四日第一小法廷判決、民集一七巻二号三三五頁参照)。

したがつて、吉田峯之助は、本件手形上の権利を取得せず、原告は、無権利者の吉田峯之助から本件手形を取得したことになる。

六よつて、進んで原告が、悪意又は重大なる過失に因りて、無権利者の吉田峯之助から本件手形を取得したかどうかについて判断する。

〈証拠〉によれば、原告は、昭和四一年三月七日および翌八日の二回にわたり、吉田峯之助立会の上、被告近衛秀麿と会談した結果、「本件手形は、被告近衛秀麿が、吉田産業株式会社より買受けた土地代金支払のため、振出したものであるから、本件手形の支払は、確実であり、吉田峯之助が本件手形の権利者である。」と信じて、吉田峯之助から本件手形を割引により取得したこと、原告は、昭和三六年頃から、小規模の金融業を営む者であり、本件手形取得以前に、吉田峯之助から、吉田産業株式会社代表取締役の肩書を記載した吉田峯之助の名刺の交付を受け、本件手形取得当時、吉田峯之助が吉田産業株式会社の代表取締役であることを知つていたが、吉田峯之助が吉田産業株式会社の取締役会の承認を受けていないことを知らなかつたこと、原告は、右取締役会の承認の有無について何らの調査をしなかつたことを認めうる。被告本人の供述のうち上記認定に反する部分は採用しない。

七株式会社の取締役が取締役会の承認を受けることなく、会社から、約束手形の裏書譲渡を受けた場合、右取締役から右手形を取得した者が、金融業者であり、かつ、右会社からその取締役への裏書譲渡の事実を知つているときでも、取締役会の承認のあつたことを疑わせる特別の事情のないかぎり、取締役会の承認の有無について調査しなくても、取得者に重大なる過失があつた認めえない、と解するのが、手形法第一六条第二項所定の手形の善意取得の趣旨から考えて、相当である。

したがつて、被告主張の抗弁は採用しえない。

八よつて、原告の本訴請求は正当であるから、民事訴訟法第四五七条により本件手形判決を認可し、異議申立後の訴訟費用の負担について、同法第四五八条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

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